箱根駅伝を諦めた男たちが手にした「成功」

キラキラした方向に引き寄せられるのは世の常かもしれない。皆が同じ方向を見ているわけではないが、世間の“人気”は偏っている。しかし、そこに才能のミスマッチが生まれることもある。本人はAで結果を残そうとがんばっているのに、実際はBの方が向いている場合があるからだ。


筆者がメインで追いかけている陸上競技には、短距離、中距離、長距離、ハードル、競歩、跳躍、投てき、混成と多様な種目があり、自分が最もマッチする種目を選ぶことができる。だが、実際は花形種目である100mと駅伝につながる長距離(中学は3000m、高校は5000m)に人気が集中する。そして、両種目から徐々に“方向転換”していく選手もいる。高校生でいうと、インターハイ路線は各種目1校3名しかエントリーできないため、出場できる種目を選んでいるうちに、それが自分のメイン種目になっていくケースが少なくないのだ。

今夏のロンドン世界選手権に出場する男子十種競技の中村明彦(スズキ浜松AC)と男子棒高跳びの山本聖途(トヨタ自動車)は中学で陸上部に入った当初は長距離だった。高校から現在の種目に本格挑戦して、世界大会につなげている。もし長距離にこだわっていたら、平凡な選手で終わっていた可能性が高い。そこで今回は箱根駅伝をあきらめて、「成功」をつかみつつあるアスリートを紹介したいと思う。

長距離から800mへ、規格外の種目変更

箱根駅伝の人気はすこぶる高い。そのため多くの高校生ランナーが、関東の大学を志望している。同時に駅伝強化校による有力選手の“獲得合戦”もヒートアップ。4年前、強豪大学から熱視線を集めていたのが村島匠(順天堂大)だ。

富山商高では1500m(3分47秒54)、5000m(14分11秒89)、3000m障害(8分59秒12)で高校トップクラスのタイムをマーク。全国高校総体(インターハイ)では1500mで優勝した。順天堂大入学後は、「1万mで27分台を出して、箱根駅伝でも活躍したい」と距離を伸ばしていくつもりだった。

5月の関東インカレでは3000m障害で1年生チャンピオンに輝くなど、順調に大学生活を切ったかのように見えた。しかし、長い距離への対応がうまくいかなかった。1学年下に3000m障害でリオ五輪に出場することになる塩尻和也が入学したこともあり、「変に張り合うのではなく、割り切って、自分の特性を生かせる種目を選ぼうと思ったんです」と3年時から方向転換。高校時代はほとんどやっていなかった800mへ思い切って転向した。

日本陸上界では、短い距離の種目でスピードを強化して、徐々に長い距離へシフトしていくことが、オーソドックスな育成スタイルになりつつある。しかし、その逆はほとんどない。名誉総監督でもある澤木啓祐コーチからのアドバイスを受けて、 “逆転の発想”ともいうべき種目変更だった。

800mは中距離種目で、そのトレーニングは箱根駅伝を目指す選手たちと大きく異なる。新種目のチャレンジは箱根駅伝をあきらめることを意味するため、村島は大いに悩んだという。

続きは『東洋経済オンライン』で