42.195kmという距離を人類はどれだけ速く走ることができるのだろうか。その疑問を考えるうえで、9月16日のベルリンマラソンは衝撃的なレースだった。主役は〝生きる伝説〟になりつつある、エリウド・キプチョゲ(ケニア)だ。マラソン戦績はこれまで10戦9勝。数々のメージャー大会を制してきた男が2時間1分39秒の世界記録をマーク。従来の世界記録(2時間2分57秒)を1分以上も更新したのだ。
日本勢は中村匠吾(富士通)が大幅ベストの2時間8分16秒で4位に食い込むも、キプチョゲに6分半以上の大差をつけられた。今年2月の東京マラソンで設楽悠太(ホンダ)が日本記録(2時間6分11秒)を樹立するなど、日本は2020年東京五輪に向けて、活気づいている。その中で誕生したリオ五輪王者の〝大記録〟は、日本陸連の河野匡・長距離マラソンディレクターが、「我々にとってはショッキングな結果です」と話すほど異次元なものだった。
しかも、今回のレースを冷静に分析してみると、キプチョゲはまだまだタイムを短縮する余地を残している。まずは前世界記録保持者のデニス・キメット(ケニア)と今回のレースを比較してみたい。下記の表は両者のスプリットタイムとラップタイムだ。ともに高低差が約20mで、高速コースとして知られているベルリンマラソン(14年と18年)で樹立した記録になる。
キメット | キプチョゲ | |
5km | 14:42 | 14:28 |
10km | 29:24(14:42) | 29:01(14:33) |
15km | 44:10(14:46) | 43:38(14:37) |
20km | 58:36(14:26) | 57:56(14:18) |
ハーフ | 1:01:45 | 1:01:06 |
25km | 1:13:08(14:32) | 1:12:24(14:28) |
30km | 1:27:38(14:30) | 1:26:45(14:21) |
35km | 1:41:47(14:09) | 1:41:01(14:16) |
40km | 1:56:29(14:42) | 1:55:32(14:31) |
ゴール | 2:02:57(6:28) | 2:01:39(6:07) |
4年前のキメットは、中間点を1時間1分45秒で通過。ペースメーカーが離れた30kmからペースを上げて、4人の選手を揺さぶった。35km付近からは、エマニュエル・ムタイ(ケニア)との一騎打ちになり、38km過ぎにスパートをかけている。ライバルの存在もあり、後半は1時間1分12秒というネガティブスプリットになった。
今回のキプチョゲはというと、ペースメーカーに世界記録超えのハイペースを要求。序盤で抜け出すと、中間点をキメットより39秒も速い1時間1分06秒で通過した。しかし、驚異的なスピードに3人のペースメーカーが対応できない。